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生活と考察の記録

生活保護世帯の積立貯金と生活福祉資金

生活保護利用世帯で積立貯金がある場合に、生活福祉資金の就学支度費の貸付制度を利用すると、貸付金額から積立貯金額が減額される所と減額されない所があり、取扱いに差があることがわかりました。

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生活福祉資金の就学支度費について

大学等の入学資金について生活福祉資金の就学支度費という制度がある。就学支度費は50万円を上限として、大学等の入学金などの入学に際して納入する必要がある費用について貸付を受けることができる。奨学金に関しては入学後に初回の振り込みが始まるのが主流なため、大学入学に際して必要な費用を工面する手段として生活福祉資金の就学支度費は重要になっています。

全国社会福祉協議会のHPによると「本貸付制度は、都道府県社会福祉協議会を実施主体として、県内の市区町村社会福祉協議会が窓口となって実施しています」とされています。そのため今回は実施主体である全国の都道府県社協のうちHPにて問い合わせ先が確認できるところに問い合わせを行いました。

なお、実施主体が都道府県社協、窓口が市町村社協、そして生活保護利用世帯が生活福祉資金を利用する際には福祉事務所から社協に意見書を提出します。

 

生活保護利用世帯の高校生等のアルバイト収入

生活保護利用世帯では収入に応じて収入認定される。ただし、高校生のアルバイト収入については,20歳未満控除等の勤労控除、高等学校等就学費の支給対象外経費(学習塾費等を含む。)、就労や早期の保護脱却に資する経費等が収入認定除外とされる。つまり、生活保護費を減額しないでおける。

以下は、厚労省が作成している〇カツからの一部引用です。

 

 

就労や早期の保護脱却に資する経費とは、次の6つです。

(1) 自動車運転免許等の就労に資する技能を修得する経費

(2) 就労に資する資格を取得することが可能な専修学校各種学校又は大学に就学するために必要な経費(事前に必要な受験料(交通費,宿泊費など受験に必要な費用を含む。)及び入学料や前期授業料等に限る。)

(3) 就労や就学に伴って,直ちに転居の必要が見込まれる場合の転居に要する費用

(4) 国若しくは地方公共団体により行われる貸付資金又は国若しくは地方公共団体の委託事業として行われる貸付資金の償還金

(5) 就職活動に必要な費用

(6) 海外留学に必要な費用

これらを収入認定除外とする場合には「取扱いにより生じた金銭について別に管理することにより,明らかにしておくよう指導するとともに,定期的に報告を求め,当該金銭が他の目的に使用されていないことを確認すること」とされています。

アルバイト収入の振込口座をこの積立貯金の口座とする場合が多いです。振込込口座から積立用口座へお金を移すために手数料がかかることを避けるため、生活保護利用者にとってはいくらが収入認定されるべき金額であったかがわかりにくい(上述の画像の例であればためその金額のみを別立てで貯金するのは不便なため。

上述の〇カツの例でいえば、40,000円のアルバイト収入のうち、7,600円が「就労や早期の保護脱却に資する経費等」として収入認定除外が認められる金額であり、32,400円は本来であれば使途が限定されていない勤労控除(基礎控除、20歳未満控除など)や必要経費である。つまり、アルバイト収入全額を積立貯金した場合は貯金の大半は使途が限定されないお金であることに留意したい。

生活保護利用者が大学等(夜間大学等を除く)に入学した場合には、世帯分離がされることとの兼ね合いから、大学等の入学時以外にかかる経費に関しては収入認定除外する取扱いが認められていません。大学生の世帯内修学を認めていないため生活保護費が就学費に充てられてしまいます。

大野慶「生活保護世帯の子どもの高等教育「修学」機会 : 「実施要領」の分析を通して」(教育福祉研究 24 59-71 2020年2月  )では次のように論じられています。

子どもの高等教育「修学」機会の基礎となる生活基盤に関して、生活保護制度は「何も」事前に調達することを認めていないことがわかる。

子どもの高等教育「修学」機会の基礎となる生活基盤に関して、生活保護制度は概して支えとなり得ないと言える。そして気になるのは、生活保護制度が子どもの高等教育「修学」機会の達成の一助とならないばかりか、「住居費」、「生活費」、「教育費」に関して費用保障が不十分であること、に加えて事前の費用調達すら認めないことにより、むしろその「足枷」となっているのではないかということである。

とはいえ、勤労控除を貯金に回したお金に関しては、「就学」のみならず「修学」に充てることも可能です(もちろん本来的に使途が限定されるものではありませんので、「就学」以外の用途で使用することも可能です)。

また、大学等を卒業して生活保護利用世帯に戻ってきた場合に、生活福祉資金の就学支度費の償還額は収入認定除外することができます。

生活保護ケースワークについて

生活保護利用世帯で高校生等がいる世帯については、〇カツの配布、収入認定の取扱いの説明、大学等への進学を希望する世帯には世帯分離の説明を行っています。

監査の実施要綱にも収入認定除外の取扱いが周知がされているかが含まています。高校生等へのケースワークにとって重要な位置づけとなっています。

NHKドラマ「むこう岸」という生活保護をひとつのテーマにしたドラマの中で主人公たちが自分で生活保護手帳を読んで収入認定除外の取扱いを調べるシーンがあるようです。しかし、本来は生活保護ケースワークの一環としてこの情報は周知されるべきでしょう。

とはいえ、福祉事務所も夏休みや冬休み期間に訪問するなどの工夫をしているものの高校生等に直接面談をすることが難しく、世帯主などを通じて周知がされることも多いかもしれません。三宅雄大『「縮減」される「就学機会」――生活保護制度と大学等就学』(生活書院)において生活保護ケースワークで世帯主に情報提供したその情報の世帯内でどう伝達されていくかが述べられていたように思いますのでこの点に興味のある方はどうぞ。

生活福祉資金に関する回答内容の検討

生活福祉資金の就学支度費の貸付を利用したい場合に生活保護利用世帯が積立貯金をどのように取扱うでしょうか。

私の問い合わせ内容は次のとおりです。なお、各都道府県社協から問い合わせ可能なところへ問い合わせをしました。群馬県社協など一部の社協には問い合わせしておりません。

【生活福祉資金の教育支援資金に関する問い合わせ】
生活福祉資金の教育支援資金を利用する際に、生活保護世帯の高校生がアルバイト収入を積立貯金していた場合の取扱いについてお尋ねします。
貸付額の決定に際して高校生の積立貯金があることを把握した場合には積立貯金額を差し引いて決定しますか。また、その際の根拠を教えてください。
例えば就学支度費として大学等に入学する際に50万円が必要だった際に、高校生等の積み立て貯金が30万円あったことを把握した場合には、貸付額を20万円にしますか。
ご教示いただければ幸いです。よろしくお願いいたします。

 

この問い合わせへの回答を冒頭にも示しましたが改めて以下のリンクです。現時点の回答結果ですが随時更新してきます。

生活福祉資金問い合わせ一覧 - Google スプレッドシート

 

北海道、秋田県、栃木県、福井県、宮崎県は原則として積立貯金を生活福祉資金から減額しないと回答をしてくれました。

奈良県鳥取県岡山県は、逆に、原則として積立貯金を生活福祉資金から減額すると回答しました。

岡山県社協は「原則として、その貯蓄を学費に充てていただき、その分貸付額を減額して決定することになります」とし、「具体的な根拠はないと思われますが、 生活保護上進学を前提に貯蓄が認められていること、貸付額を減額することで将来の学生の負担を軽減できることを踏まえ、 このような運用を行っているところです」と根拠がない運用している旨を教えてくれました。

一方で、岐阜県、福岡県、宮崎県は「生活福祉資金貸付制度要綱の第5貸付金額に『~借入申込者における資金の使途や必要性、償還能力等を勘案の上、真に必要な額について決定するもの~」とされていること根拠に、機械的に判断しないことを明示しています。

このように各都道府県社協によって生活福祉資金の取扱いは大きく異なっています。生活福祉資金の実施主体は各都道府県社協となっています。青森県や東京都はそのため都道府県によって運用が異なる旨を明示しています。しかし、個別具体的な事例にて判断に差異があるどころか、一般的抽象的な質問に対しても真逆の結論を取る社協があって良いのでしょうか。しかも、生活保護制度の積立貯金の取扱いに差異があるということは、ナショナルミニマム都道府県社協によって異なってしまうことになります。

生活福祉資金の貸付制度について実施主体である各都道府県社協に問い合わせをしてみました。しかし、窓口である市町村社協への相談を促す社協が多かったです。責任の所在が極めて不明瞭な制度です。しかも、審査請求などができる制度ではなく、権利性がありません。個別具体的に相談で決めるという都道府県社協が多いですが、果たしてお金を貸す側と借りる側の圧倒的な権力勾配がある中で、貸付を利用する世帯は高校生等で年齢差もある中で、対等な関係性の中での相談結果と言い切れるでしょうか。

都道府県社協ですら生活福祉金の貸付制度の在り方について振れ幅が大きいので、窓口である市町村社協はもっと極端かもしれません。「学生のために貸付金額は極力少額であるべきだ」という前提で面談されたら相談結果をコントロールしうるのではないでしょうか。

また、滋賀県社協のように生活保護ケースワーカーへの相談を促す都道府県社協も多くありました。この点、滋賀県健康政策課からは「生活福祉資金の教育支援資金に関してですが、当該資金は収入要件は定まっておらず、また、社会福祉協議会においても積立貯金額等の資産額を把握することは実質的に困難であるため、貸付金を減額することはないと思われます」と回答がありました。このように福祉事務所にとっては積立貯金額分を減額することはないと考えているものだと思います。

都道社会福祉協議会は実施主体として責任ある回答をせず、窓口である市町村社協や意見を述べる福祉事務所に責任を割り振っています。「我が事・丸ごと」の地域福祉と言わるが、実施主体である自らの主体性を放棄し、他人事のように回答する姿勢に地域福祉が強調される社会福祉の深い問題を感じずにいられません。

まとめ的なもの

生活福祉資金の就学支度費を利用する場合に、生活保護利用世帯の積立貯金の取扱いに都道府県社協によって差異があることがわかりました。

都道府県社協によって取扱いの差異がなくなるような明確な通知を発出して、各都道府県社協の統制を図ることがひとまずの急務だろう。

「むこう岸」は生活保護制度をフル活用して進学するものだが、生活保護制度が生きるためには周辺の制度改善も必要です。

生活保護利用世帯は他に活用しうる資産や他者からの援助は相対的に期待しづらい状況にあります。大学等に「就学」するために資産を費やすことで、「修学」のために必要な生活費、住宅費などが無くなってしまう可能性があります。「就学」にあらゆるリソースを割くことは「修学」を侵害します。

より大きな展望としては大学生等の生活保護を利用しながらの世帯内「修学」を認めるべきです。世帯内修学を認めていないからこそ「就学」にあらゆるリソースがかけられてしまいます。「修学」のための積立貯金が認められるようになるべきです。さらに生活福祉資金の「就学支度費」の償還は収入認定除外することができますが、「教育支援費」は収入認定除外できないとされています。これは大学生等の世帯内修学が認められていないことと関連しているとされています。

また、生活福祉資金という権利性のない制度ではなく、生活保護制度の中で例えば中学や高校などと同様に入学準備金を整備するか、入学前の費用の給付を別建てで拡充すべきだ。