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生活と考察の記録

生活保護のホームページがない自治体(沼田市、富岡市、安中市)

生活保護のホームページがない自治

群馬県沼田市富岡市安中市の3市が生活保護についてホームページで説明していないことがわかった。3市ともに早急にホームページを作成予定という。群馬県桐生市で様々な問題が明らかになっている。群馬県の各福祉事務所の生活保護のホームページと生活保護のしおりを調査していたところ、衝撃的な事実がわかった。

沼田市は「昨今では老若男女問わずスマートフォンにてインターネットを活用できる社会となりましたので、対応するべく、ホームページを作成」する予定という。富岡市安中市はホームページを作成していない理由は特段ないという回答だった。

社会・援護局関係主管課長会議の保護課分では次のような記載がある。確かにホームページを作成する指示はないが、そもそもホームページが作成されていることを前提に、その見直しをするよう指示されている。

生活保護制度を案内する各地方自治体のホームページやしおりについても、内容に不適切な表現がないか、制度改正などが反映されていない点がないかなどを点検いただくとともに、こうしたことにより相談者に申請をためらわせることのないよう引き続きご対応をお願いする。

また、富岡市のホームページには「お富ちゃんに質問する」という欄があり、そこに「生活保護を受ける条件について」と入力すると回答が返ってくる。その答えでは「扶養調査(身内の方からの援助の有無等を確認する調査)」とあり、扶養調査が申請の条件であるかのような記載がある。しかも扶養照会をしない対象の例示がない。ホームページで案内していない内容をチャットボットで回答するリスクがある。参照元は何なのだろうか。生活保護担当課が明確に指示をして責任を追える体制なのだろうか。ちなみに、安中市にも同様のチャットボット機能がある。しかし、私がいじった限りでは、生活保護の質問をしても国民健康保険のことかと聞かれて、生活保護のことはわからなかった(それが良いことなのか悪いことなのかという問題はありますが…)。

 

お富ちゃんのスクリーンショット

桐生市生活保護ホームページについて

厚生労働省は2020年12月22日に「生活保護は国民の権利です。生活保護を必要とする可能性はどなたにもあるものですので、ためらわずにご相談ください。」というメッセージがホームページに記載した。

www.asahi.com

令和3年9月の決算特別委員会にて、厚労省の広報を受けて、桐生市生活保護の権利性を広報することを議会で求められていた。しかし、桐生市は積極的な広報を拒否をしていた。「相談があった場合丁寧に対応させていただいている状況であります」と回答していた。

令和 3年  決算特別委員会 09月02日-03号 P.125 ◆質問 委員(渡辺恒)

◆委員(渡辺恒) 
  それと、生活保護については、1人のところでカウントするというところであります。そうすると、なかなかこのコロナの関係の中で今生保に関する仕組みやその生保を受けていいのだということの周知というのもやはり今必要になってくるのではないかなというふうに思うのです。厚生労働省は、このコロナの関係の中にあって、生活保護は国民の権利である。請求することについては、何ら問題はないということを明確に打ち出してホームページや公式SNSのアカウントなどにおいても公表しているような状況になります。桐生市も、そういったことに倣ってホームページやSNS等で国民の権利であるというところをうたい、生活に本当に困っているのであればぜひ相談してくれというようなことを取り組んだらいかがというふうに思いますが、どうでしょうか。

P.126 ◎答弁 福祉課長(渡辺浩司

◎福祉課長(渡辺浩司) 
  今生活保護についてもっとPRをというところなのですけれども、やはりこちらは国のほうでいろいろと周知のほうしておるところでございます。また、生活困窮者の自立支援のところでも、生活困窮のところで救えない部分というのですか、その部分についてはしっかりと生活保護の係のほうと連携しておりますので、御理解のほういただければと思います。

P.126 ◎答弁 保健福祉部長(助川直樹)

◎保健福祉部長(助川直樹) 
  生活保護の関係でございますけれども、先ほど課長のほうでお話はさせていただきましたけれども、告知云々ということで、単純に告知するというだけではなくて、当然権利ということは我々も承知しておりますし、そういった御相談については、相談があった場合丁寧に対応させていただいている状況であります。
  なお、ただ生活保護の制度自体を全面的にホームページで表して御理解いただくというのは非常に難しいことかと思っておりますので、もしそういう御相談がありましたら、私どものほうにいつでもお話をいただければ、その相談を受けて対応させていただければと思っております。そのようなことで今までもやってきておりますので、御理解いただきたいと思います。

桐生市は面接相談時に警察OBが同席して対応していたことがわかっている。また、生活保護の申請に行くと5人がかりで怒鳴られたという報道もある。生活保護が権利であるという積極的な広報を拒否し、面接相談時には警察OBが対応し、複数人で取り囲んでいた。なるほど、桐生市にとっての丁寧な対応の内実が明らかになってきている。

mainichi.jp

www.jcp.or.jp

なお、桐生市は令和6年3月21日付でホームページの更新を行った。ちなみにこの更新内容を含めた群馬県下の各福祉事務所のホームページと生活保護のしおりの評価は別の記事で触れたいと思います。

www.tokyo-np.co.jp

問われるべき監査制度

沼田市富岡市安中市の3市は生活保護の情報を発信する最低限の行為すら怠っていた。もちろん早急にホームページを作成すべきだが、作成すればこれまで作成していなかった問題が無くなるわけではない。

また、これらの3市のみならず、群馬県厚労省のように監査する側にも責任がある。一市民からの問い合わせに対して3市ともに早急に生活保護のホームページを作成すると回答があった。私以外にも群馬県の各福祉事務所に問い合わせをしているかもしれないが。もし県や厚労省が監査で指摘していればもっと早くに改善していただろう。

群馬県厚労省はホームページがないことを把握していなかったのだろうか。把握したが指摘をしてこなかったのだろうか。生活保護のホームページがない期間がどれだけあったのか。何年か、何十年なのか。

これは生活保護の監査制度の欠陥でもある。監査制度は濫給防止を偏重して漏給をまなざそうとしない。つまり、生活保護を必要な人に届けようとしているかどうかは監査ではまなざされない。また、各扶助や各加算が必要な人に計上できているかもまなざされない。つまり、ホームページがない状態を監査制度を含む現行のシステムは許容してしまっているのだ。

群馬県桐生市の事件を受けて、遺憾で再発防止に努めたいと述べて、印鑑などの問題は見抜けなかったという。確かに福祉事務をがさ入れのようにチェックするのは現実的でないかもしれない。しかし、生活保護利用者が10年間で半減してきたのは監査資料で明らかだ。群馬県はそれを肯定的に捉えることはあっても、批判をしてこなかったのではないか。また、桐生市が1年間の通院交通費はたったの8件で合計2,400円しかなかったという。このように生活保護の扶助が必要な人に届けられていない疑いが十分にあるにもかかわらず監査制度はこの面では機能していない。

mainichi.jp

また、2021年7月に生活保護情報グループが厚労省に情報公開請求をして、エアコンの支給実績の自治体間格差を見える化したことがあった。厚労省は「最終的には自治体の判断であり、国として今回のデータを評価することは難しい」と回答していた。そもそも生活保護情報グループが開示請求を行ったのは厚労省だ。厚労省が持っているデータだ。そのデータを監査で活かして、必要な人に必要な保護を届けようとはしていない。その上でまるで他人事のようなコメントをしている。

www.asahi.com

 

篭山京(1978)『公的扶助論』光生館の182頁から以下の文章を引用する。1978年の刊行物の内容であるにも関わらず、現代においても通用すること自体が遺憾なことである。

 法第1条と法第3条に基づいて監査することは、事務的になかなかむずかしく、法第2条と第4条の要件について監査する方がやさしいので、その方に傾いたということもあった。むしろ指揮監督は、法第1条と法第3条に基づいて行うべきで、厚生大臣はその指揮監督そのものが、法第1条、法第3条にそっていたかどうかを、国民によって監査せられなくてはならないのである。

 この監査の担当者は法第23条第2項で都道府県知事または市町村長に対して資料の提出・説明を求め、指示をすることができるので、福祉事務所に対しては強い権限になる。このために、福祉事務所の業務は、監査で指摘を受けないような、事なかれ主義に流れた。(中略)

 けれども一体、指揮指導に当ったり、監査に当る官吏や吏員が、生活保護制度をどれだけ知悉し、生活困窮の本質と実態をどれだけ知っているかについての審査、言いかえれば監査官の資格審査は規定されていない。したがって、その指揮監督や監査が官僚独善に陥って、角をためて牛を殺すことになっている危険性を全く否定することができない。官吏や吏員の質の問題は、あらゆる面で問題とされ、これに応えるために研修が行われている。しかし監査官の研修・試験は行われていないようである。したがって、厚生大臣をはじめとする実施機関に対する国民の批判が、きわめて重要なのである。

監査制度を市民(国民に限らず)でチェックして批判していくことが生活保護行政の民主化のためには重要なのである。そして、市民のための生活保護制度としていくためには、監査制度を含めて根本的な改革が必要だ。